7/18-31

Sacred Water
Yoshiyuki Mori
Photo Exhibition

2025.7.18(FRI)-7.31(THU)
23, 30 closed

Sacred Water

「闇は友」と友人のシャーマンが話してくれた。
なんとなく聞いていたその言葉の意味が、
遠い時間を隔てた山深い夜の闇の中で僕の記憶を呼び覚ました。
視界を失ったような不思議な五感の感覚とともに再びその言葉が舞い降りてきた。

夏の夜。
紀伊山地の大台ヶ原を源流とする川の岸辺にいた。
そこは暗室と同じように全暗の世界だった。
光が消えたその場所は昼間とはまるで別の空間のように感じられた。

視界を失った恐怖を感じて全身の体毛がそそり立つ。
未知の世界に迷い込んだ不安が感覚を研ぎ澄ましていく。
暗闇に何かが潜んでいるのではないかという怖れ。
それはケモノかもしれないし生きている者ではないかもしれない。

ある目的で夜の暗闇を求めてここへ来た。
僕が求めていたのは全暗の闇だった。
その通りの闇がここには広がっていた。
けれどこんなにも感覚を揺さぶられるとは想像もしていなかった。
目的はなんとか果たすことができたが、
意図しなかった闇の空間に魅き込まれた。
その時あの言葉が舞い降りてきた。
「闇は友」。
足元を流れる水音が途絶えることなく聞こえてくる。
不思議な浮遊感の中でしばらくの時間が過ぎて行った。
闇の中から何かがうっすらと視界の中に現れてきた。
見ることを半ば放棄していた僕は眼を凝らして闇の中を見つめた。

それは白く泡立つ水だった。そして白い石の岩肌だった。

圧倒的な闇の中から立ち上がってきた白。
僕には白という概念がそこに現れたように思えた。
それは白が生まれ出ずる瞬間であるようにも感じられた。
閤の中から新しい白が生まれ、新しい光が生まれてくる。
それは静かでとても神聖な情景だった。
太古に白と黒という認識は闇の中から生まれてきたように思えた。
そこには色は存在するが肉眼では認識できない。
モノトーンに近い抽象的とも思える具象の世界だった。

いつの間にか恐怖や不安は消え去っていた。
自分が闇の中に身を置いていることの心地よさを感じていた。
それは闇に紛れていることの安堵のようなものだった。
そして閻が与えてくれたメディテーションに感謝した。
果てしなく続く永く遠い時間の中で、
この場所の夜は変わることなく穏やかで、
調和に満ちた原初の闇の包容力に揺られていた。
見上げると8月の空には満点の星たちが鮮やかな色彩を纏って輝いていた。
そこには美しく豊かな色が散りばめられていた。
僕は死を体験して生き返ったような不思議な感党を感じた。
深い谷間から見えるそれはまさしく天の川だった。

森善之
1960年生まれ
1988年 韓人像(オリンパスギャラリ ー ・新宿)
1998年 新鋭展(奈良写真美術館)
1999年 Cicle&Circle (Dot•京都)
2001年 水辺の迷宮(ペーパーボイス・大阪
2004年 三部作 ちよろず・殺風景・父と母 (wall•東京, アルテリブレ・大阪)
2006年 詩写真集「うた」を上田伽奈代との共著として上辞
2008年 写真家のユニット ・七雲を設立
2009年 日本各地の暮らしを取り上げる冊子Japangraphを出版
2011年 作品集「水のすみか」を出版
2018年 作品集「面影の伽耶」を出版
2022年 作品集「白の余白」を出版
2025年 現在 株式会社七雲主宰
滋賀県高島市にて自給の拠点を開作中

株式会社七雲
京都府宇治市槙島町ーノ坪345滋賀県高島市朽木栃生636

https://nanakumo.jp

maruzen07@gmail.com